Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

     “紫陽花の陰にて”
 


もち米を水に浸し、吸水した後に水を切り、
せいろで蒸して、
蒸し上がった物を天日にさらして乾燥させて、
干し飯(ほしいい)として保存したのが“道明寺粉”。

「えっと。こんなものかなぁ?」
「ええ、いい按配ですよ。」

水を張った鍋へ道明寺粉とさとうを入れ、
しゃもじで混ぜながら、水気がなくなるまで弱めの火で加熱する。

「焦げやすいので気をつけてくださいましね?」
「はぁい。」

熱せられた砂糖は庫裏の中を甘い芳香で満たし、
何とも幸せな心持ちを誘う中。
かまどの傍らに立ち、真剣なお顔でしゃもじを動かしている書生くんの様子へ、
自分たちの仕事で出入りする仕丁らが、
あれまあと微笑ましげに笑ってみせる。
袖から下がる袂を肩から背中へと回したたすきでからげ上げ、
慣れない調理に頑張る様子も微笑ましいし、

「いいによいvv」
「う、いいによいねvv」

いつも一緒の、双子のようにそっくりな小さい坊やたちが、
今もまたそんなお兄ちゃんの背中へ上下に引っ付き、
興味津々、首を伸ばすようにして手際をのぞき込んでもいるからで。

「お邪魔をしてはいけませんよ?」
「あいvv」
「はぁいvv」

屋敷の内証を切り盛りしているご婦人からの、やんわりとした忠告へ、
ふわふかなことが見ただけでも伝わる丸い頬をほころばせ、
良いお返事をする幼子たちは、
実は狐の精霊なので。
小さなお兄さんも慣れたもの、二人がかりのおんぶもさして重くはないようで。

「さあ、こちらへ。」

手際を見守っていたおばさまが、
固く絞った濡れ布巾を敷いた蒸し器を用意してくれていて、
それへと熱々の生地を広げると、そのまま強火で蒸すこと少刻。
蒸している間に こちらも小豆をと砂糖を煮ておいた餡玉を丸めておき、

「蒸しあがりましたよ。」
「は〜い。」

作業用の飯台の上、
それでなくとも湿気の多い中に尚の温気が増したほど、
もうもうと湯気が立ち上る蒸籠を移してもらうと。
手に砂糖水をつけながら、
蒸しあがった生地であん玉を包み、
くるくると俵型に整えれば、

「わあvv」
「お団子vv」

坊やたちがきゃっきゃとはしゃぐのへ、

「いや、これはお餅なんだけど。」

小豆のゆで汁などで緋色を付けてあれば、
差し詰め“桜餅”だったところだが、
今回のは白いまま。
それを柏の葉でくるんだので、何だか頓珍漢な仕様じゃああるが、
それでも黒い塗りの高脚膳へ盛ると、
なかなかに収まりのいい、立派なご馳走で。

「上手に出来ましたね。」

ツタさんからそうと褒めていただいて、
わぁと頬を染めた書生くん。
大きめの盆にまだいくつも残っていた餅は、
わくわくと大きな目を輝かせていた子ぎつねさんたちへ

「ついでみたいだけど、今日のおやつに食べてね。」

どうぞと勧められてから、
わぁいvvと嬉しそうにあどけないお顔へ笑顔を濃くするのが、
こちらもなかなかにお行儀のいい坊やたち。
早速にもお兄さんの背中から降りたのへ、

「ああ手を洗ってからですよ。」

そこだけは譲れませんとの注意が飛んだのがご愛嬌。(笑)
そんな賑わいを肩からほどいたたすきごと庫裏へと残し、
高脚膳を両手で丁寧に持ち上げた瀬那くん。
さかさかした足取りで廊下に出ると、
今朝からずっと細かな雨がさあさあと降り続いていたその気配が頬を撫でる。
庭の側に横手が開けている廻り回廊からは、
そろそろ盛りも過ぎようかという紫陽花の茂みが望めて。
そこへと降りてゆく短い階の手前、
蔀もない小さめの板張りの間に踏み入ると、
少し長い裾が腰回りから下がっていたのを手際よくさばきつつ、
筒袴をはいた脚をお行儀よく正座に折りたたみ、
膳を庭側へ据えて、さて。

「進さん、出て来てくださいな。」

どこへともなくの独り言みたいに声に出して呼びかければ、
小雨の気配の手前に浮かんだのが、
雄々しくも屈強精悍な武神様の姿。
当世の大人たちがそうしているように結うためと伸ばしてもない黒髪が、
切れ長の鋭い双眸を据えた男らしい風貌や、
武装を思わせる装束をまとった
頼もしい肢体が醸す勇壮な威容によく映えて。
その精悍なお顔には日頃からも表情が乏しい彼ではあるが、
そんな彼から常に守られている瀬那には、
やさしく和んだ表情でいるのがようよう判って、

「そろそろ進さんが生まれたという頃合いなのでしょう?」

昔の日本には今様の“誕生日”という観念はなく、
誰しも年明けとともに一斉に歳を重ねるとされていたけれど、
それでも、春先に生まれたとか雪の多かったころに生まれたとか、
そんな話を愛おしみ、目出度いことだと祝ったりすることくらいはあっただろ。
瀬那は年の瀬のバタバタしていた頃合いに生まれたそうで。
それでも両親はそれはそれは喜んでくれたのだという話をした折、
この武骨な憑神、
自分とは正反対な時期にお生まれかとちらりこぼしたのを聞いてしまい、
それからはこうして、
彼なりのお祝いを構えてくれていて。

「ボクの作ったものだから、味の方には自信がありませんが。」

にっこり笑ってどうぞと膳を手のひらで指し示せば、
おおと目許を見張ってから、
少々照れたか口許へこぶしを添えて見せ、
だがだが、律儀にも一礼すると、
階の下から腕を伸ばし、
柏の葉にくるまれた小ぶりな餅へと大きい手をかざす。
実体はない彼だが、そんな彼の手には、
そちらも影のような餅が移っており、
口許へと運んでくれるのをにこにこ見守る瀬那のお顔も
餅より甘く感じられたに違いなく。
時おり強くなる雨脚に、
たたんと叩かれてはお辞儀をしている紫陽花の毬花も、
心なしか照れてるように見えた梅雨の終わりの一景でした。







     〜Fine〜  15.07.08


 *お誕生日おめでとうです、進さん。
  更新が遅れまくっとる愛楯ですが、
  これはやっぱり
  外せないだろうと思いまして。
  瀬那くんにも頑張ってもらいましたが、

  「何か、
   仏様に供えた飯のおさがりみたいだな」

  お裾分けを受けた誰かさんは
  そちらも照れ隠しから
  そんな言いようをするかもですね。
  ぱわーつくから
  甘んじて受けてください、蛭魔さん。(笑)

ご感想はこちら*めるふぉvv

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